印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 2 -
 ガラガラという音が止まった。
 目の前にいたのは、飛び込んで来た車じゃない。
「牛、だな……」
 俺が独り言ち見上げると、牛が牽いていたのは……牛車!?
 周りを見まわすと、さらに愕然とした。
 どこだ、ここは?
 通い慣れたコンビニへの道なんかじゃ、絶対ない。田んぼばかりの田舎道、舗装されていない道路だが砂利道でもないし、電信柱もない。
 状況が理解できずにその場にへたっていると、牛車の前の方から女の人が顔を出した。牛の鼻先から延びる綱を引っ張っていた小太りのオヤジが「どけ、この」などと言ってたからだろう。
 俺の目はその女の人から離れなくなっていた。
 すっごい可愛かったから。
「牛車の前に飛び出すと危ないですよ」
 見た目を裏切らない優しい声で、怒っている風でもなく言うと、小太りのオヤジを呼んで何か言って牛車から降りてきた。
 うん、やっぱり可愛いな。
 着物姿だが、普通のとはちょっと違う。十二単みたいな感じだ。 背はそれほど高くなく、見た目の年齢は俺よりちょっと上くらいだろうか。
 その子は俺を見て、目を丸くしていた。
「その衣(きぬ)はどこのものです? 見たことがありませんが」
 コンビニに行くだけだから、ジーンズとTシャツという珍しくもない格好で、どこのと言われたら普通はメーカーかショップを答えるだろうけど、未来に架ける人という意味で『未来人』というTシャツを自作していた俺は、見たことがないのは自作だからに違いないと思ったんだ。ちなみに読み方は、もちろん『みらいんちゅ』な。
 だから「俺が自分で作ったんだけど」と答えた。
 どうやらその子は感心してるみたいだ。
「立てますか?」
「大丈夫……いや、ちょっと待って」
 腰って本当に抜けるんだな、絶対飛び込んで来た自動車のせいだ。
「どうしましたか?」
 今度は男性の声。
 見ると、平安の囲碁指南の幽霊が現代に蘇って少年に囲碁を教えるというアニメの幽霊にそっくりな人だった。着ていたのが狩衣で、烏帽子を被っていたからかもしれない。
「牛車の前に人が倒れていました」
「ぶつかったのですか?」
 女性の言葉に、男性が反応して小太りなオヤジを見た。ちょっとだけ声がきつくなっている。
「ち、違います。突然現れおって、牛も車も触ってもおへん」
 弁解するように小太りオヤジは言ったが、実際、俺もぶつかった覚えはない。
「左少将さま、いかがいたしましょう」
「このままにしておくことはできませんね。さや、とりあえず車に乗せましょう」
 男性は左少将、女の子の方はさやというらしい。左少将って役職名だな。
 立てますかと左少将なる人に言われ、今度はふらふらしながらも立ち上がり、やっとのことで牛車に乗った。
 何かを考えているのか難しい顔をしている左少将の隣に座ると、心配そうにしているさやが目の前に座った。もうひとり、さやの隣で扇を顔の前に広げ、その脇からチラチラ見ている女の子がいる。
 降りて来なかったな、この子。
 少しずつ頭もはっきりしてきたので、さやに疑問をぶつけてみた。
「あの、ここはどこですか?」
「京(みやこ)への道ですが?」
 牛車、十二単、狩衣、京、少なくともコンビニの途中ではないだろう。
 もしかして、時間を止めようとして暴走したとか、アニメやラノベでありそうな展開が思い浮かんだ。
「今って何年ですか?」
「年のことですか? 永祚二年です」
 永祚、二年だと?
 自分でまとめウィキを作ったくらい枕草子・清少納言オタクだったのが幸いした。一条天皇の元服が永祚二年一月五日、定子の入内が同二十五日、立后も同じ年の十月五日のことだ。ってちょっと分かりにくいかもな。元服は成人、入内は輿入れつまり結婚で、立后は正妻、皇后になることだ。
 永祚二年は正暦元年だが西暦九九〇年だから覚えやすい。清少納言の父、清原元輔が没したのもこの年の六月のことである。実際、色々あった年なのだ。
 この前後、永延三年が永祚元年(九八九年八月八日から)、永祚二年が正暦元年(九九〇年十一月七日から)と毎年年号が変わる。なんでこんなに覚えていたかというと、年表を作っていて、永延からの改元がハレー彗星が来たからで、永祚に改元してすぐに甚大な台風被害が出たので翌年に正暦に改元されたというエピソードがあったからだ。
 なんて考えてる場合じゃないな。本格的にヤバいかもしれない。
 マジでタイムスリップとかしちゃってるみたいだ。
「月は、日は。今日って何日です?」
「皐月十日です」
「ということは、藤原道隆が兼家から関白を継いだばかりで、定子は入内し女御になっている頃ですね」
 兼家が病で関白を辞して、道隆が跡を継いで関白となったのは永祚二年五月八日、つまり、つい一昨日のことなのである。兼家が亡くなるのは二ヶ月後だな。
「え、ええ、そうですが、関白さまや女御さまを呼び捨てになどしてはいけません」
「あ、すいません」
 俺とさやの会話を聞いていた女の子が、扇を下げて俺を見ると話してきた。
「ウチのこと知ってるて、どこかで会うたことあったやろか?」
 また扇で顔を半分隠す。その子の京都弁は少し違っているように聞こえた。時代が違うから言葉も違っていて不思議はない。というか、他の人は標準語だし。
 けど、ウチって?
「会ってないと思いますが、まさか女御定子さま?」
「せやよ」
 あの定子、いや定子さまが目の前の子? 俺はじっとその女の子に見入ってしまった。鬢削ぎ、いわゆる姫カットの少女だ……この子も可愛いかも。
「お前は、どこの誰です?」
 考え事をしていた左少将という人が、定子さまをガン見している俺をじっと見て言った。未来人って胸に書いてあるんだから、かなり怪しいのは確かだろう。
「もしかしたら、未来から時間を超えて来たのだと思います。意味分かんないかもしれないですけど」
「お前は未来人ですか。やはり。で、名前は?」
 え、未来人はいいの? やはりって。
 名前か、本名は言わない方がいいよな、色々面倒なことになると嫌だし。
 カッコいいと思うのは……
「藤原伊周?」
 言ってからしまったと思った。定子さまがすぐそこにいるのに、兄ちゃんの名前を言ってどうする。しかも半疑問形だし。
「はい。なんでしょう」
「え?」
「私が藤原伊周ですが、それが分かるとは、未来人は大したものですね」
 この人が藤原伊周? 定子さまと一緒にいても不思議じゃないけど。なら、別の名前を言わなければ。
「じゃなくて、俺、光源氏です」
 実在じゃない平安時代の名前を考えたら、それしか出て来なかったんだが、よく考えたら滅茶苦茶だな。
「なるほど」
 いや、伊周さま感心してるし。
「京に戻ったら、大事な話があります。それまで休んでいなさい」
 そう言われ、ちゃんと座っていたつもりだったけど、徹夜明けと力を暴走させたこともあってか、牛車の揺れに眠気を誘われすぐに爆睡してしまった。
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