印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 3 -
「……さま、光源氏さま」
 おーい、光源氏、呼んでるぞ!
 って俺か!?
 肩を揺すられて目を開くと、そこはお花畑だった。いい匂いもするが、花ではなく、お香みたいだな。
 意識が少しはっきりしてくると、花かと思ったのは着物の柄だと分かった。それは花柄でもなく、色とりどりの着物だ。顔を上に向けると、さやの顔がある。あ、膝枕だなこりゃ。正面に座っていたから、さやに向かって寝てたけれど、膝枕っていいもんだ。
「降りてください」
 膝から降りろということだろうかとも思ったが、牛車から降りろということだった。
 牛車を降りると、そこは大きく立派な門の前である。
 既に他のふたりはいなくなっていて、さやは門番らしき人に何か話し、やがて俺を手招きしたので行くと、連れ立って門をくぐった。
 中の建物はどう見ても民家ではない。というか、家という感じですらない。広い敷地に、大きな建物。寝殿造りというものか、そういうのが連なっている。
 ひとつの建物に近づいていくと、縁側みたいなところがスダレだらけだった。本当は御簾というのだが、スダレの方が分かり易いだろう。だだっ広い神社の本殿に、ずらずらスダレがかかっている感じと言えば分かるだろうか。
「ここってどこですか?」
 当然の疑問だな。聞かない方が変だ。
「内裏です」
 だ、内裏ぃ!?
 そんなところに入って大丈夫なのか?
 今が九九〇年だから京と言っているのは平安京で、七九四年に遷都されたのはあまりにも有名だ。現代では『へいあんきょう』と読むが、当時、というか今だが、『たいらのみやこ』と読んでいたはずである。
 南から北に向かって見たときに、ど真ん中の奥が帝のお住まいのある宮城がある。大内裏という言い方もあるが、これはかなり後になってからの言い方だ。その宮城内には官公庁もあり、その中央より少し東寄りに帝のお住まいである内裏がある。
 宮城には塀、外重(とのえ)があり、門が東西は四つずつ、南北に三つずつあり、内裏は二重の塀、中重(なかのえ)と内重(うちのえ)で囲まれ、中重の門は東西南北にひとつずつ、内重の門は三つづつだが、小さな門もある。俺がいたのは、その内裏の内側の西側の門のひとつだった。定子さまたちは別の門から先に入られたということだろう。警備も近衛府、衛門府、兵衛府、蔵人所、弾正台、検非違使などの組織があり、兵部省もあるから複雑だな。まあ、衛門府はほぼ検非違使兼任で弾正台は形骸化しているが。
 京全体では、真ん中の朱雀大路で半分に分け、右側が左京、左側が右京という。これは内裏から見た左右になるから地図的には逆だ。
 で、北端の一条から南端の九条まで分け、碁盤の目のように何十本もの道がある。一条には官舎の長屋があったりするが、基本的には宮城に近い北側が高級住宅街、離れるほど身分の低い貴族や平民が増えていくことになる。右京側は湿地なのであまり人が住んでいないし、左京側でも開発されているのは六条くらいまでで、その南は住んでいる人も減り農地になっている部分さえあった。
 その内裏の中を歩いて行く。
「ここですよ」
 さやに言われ、俺たちはスダレが降りていないところへ入るとスダレを下ろした。中もスダレで仕切られている。床はフローリングというか、ただの板張りだ。一間四方、ただし柱の間隔は三メートル以上あるから、江戸間四畳弱くらいの板の間である。一間の長さが統一されるのはもうちょっと後の時代だ。
 畳は作られるようにはなっているが、地位によって大きさが決まっていて、座布団とかソファーと考えた方が近く、ここにはなかった。
 この仕切られた部分を部屋という。スダレじゃなくて、屏風とかで仕切ることもあるから、丸見えなのは気にしないのだろう。
 遷都の七九四年から九九〇年の現在まで、およそ二百年が経過していることになるが、ここはそんな歴史を感じない。それというのも、何度も内裏は焼失していて、九八二年に焼失、九八四年に再建されてからまだ六年も経っていないからだ。歴史的建造物どころかほぼ新築だな。
 寝殿造りは母屋(もや)と廂(ひさし)および孫廂で構成される。この廂を御簾や屏風で区切った部分を部屋という。庇(ひさし)を貸して母屋(おもや)を取られるの庇は軒先の方だな。
 その部屋にさやと向かいあって座った。
「少しお話していいですか?」
「もちろんです」
 なんでだろう。丁寧な言葉には丁寧に答えてしまう習性が人間にはあるようだ。
「どちらにお住まいなのですか? 後でお送りしますが」
「東京ですけど」
「ちょっと判らないのですが、左京でしょうか? どの辺りなのでしょう?」
「京の中じゃないです」
 まったく噛み合わないし。
「この周辺で東京というのは聞いたことがないのですが……」
 伊周さまは未来人というのをすんなり受け入れたが、さやは理解していないのかもしれない。だから徹底的に話が食い違ってしまっている。
 と、俺の腹がぐぅ~と鳴った。
 徹夜して朝飯を買いに行くところだったんだから、腹が減っているのは当たり前だな。
「お腹が空いているのですか? 斎を用意させましょう」
 そう言うと「たれぞおる、たれぞおる」と人を呼び、来た女の人に「斎の用意を」と言った。この人って偉いのかも知れない。女御定子さまはもちろん特上で、伊周さまも相当偉い。それと一緒にいたのだから、かなり上でも不思議じゃない。
 現在は西暦九九〇年、皐月十日だという。これは陰暦で五月十日という意味だ。
 この年の正月五日、帝は元服された。とはいえ数えで十一歳。つまり、満だと九歳で、今年十歳になるという歳でである。普通に子供だな。
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