印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 5 -
 なんて考えていたら、十歳くらいの子供が「さやさまぁ」と入ってきた。
「あんたねっ! さやさまが拾ってきたというのは!」
 その子は何とも偉そうなしゃべり方だった。
「お前誰よ? 名前は?」
「人に名前を聞くときは自分から名乗るように教わらなかったの? ウチより先にあんたが名前を言うべきよ!」
「光源氏さまですよ、ゆかり」
 さやが答えてくれた。
「ゆかりってどういう字を書くんだ?」
「紫って書いてゆかりよ」
「いい名前だな」
「そ、そう? 紫って字は気に入ってんの。色も綺麗だし。縁のゆかりだし」
「へぇ、色々知ってんだ、ちっちゃいのに偉いな」
「ウチはちっちゃくない! もう十四だから、大人なんだから!」
 十四歳?
 数えだろうから、満で今年十三歳ということか。十歳くらいだと思ったが、現代とは発育が違うのかもしれない。いや、定子さまも同じ歳なのだが、定子さまはそれなりに見えたぞ。こいつが発育不良なだけじゃないのか?
 数え年って何度も出て来ているが、生まれたときが一歳、次の年になると二歳という数え方で、いつ年齢が増えるかというと、新年になるときだ。なんで生まれたときが一歳かというと、お腹の中にいたときがゼロ歳、つまり命の始めから数えるということらしい。旧暦での年取りがいつかというと節分(せちぶん)だった。節分は二四節季がひと回りして新しく始まる前日、つまり大晦日と同じなのだ。歳の数だけ豆を食べるというのは、年取りだったからである。ただし、豆撒きは室町時代以降の風習で、平安時代は追儺式(ついなしき)というのが陰陽師によって宮中で行われていた。節分は方違え(かたたがえ)でもあって翌年の恵方に泊まるのだが、大晦日から元旦にかけて海外で過ごすとか二年参りは、この方違えの風習の名残なのかもしれない。恵方巻きはその簡略版かな。
「暇だし、話し相手くらいはできるぞ」
 そうゆかりに言ってやると、にぱぁと笑顔になって、目の前にちょこんと座ってきた。なまいきな口調だが、見た目は可愛いことは可愛い。俺にロリ属性はない、つもりだ。
 何度も言うが、狭い部屋に三人だからかなり圧迫感がある。しかも周囲には好奇の目とダンボの耳が多数。
 皆さん、暇なんですね。
「ゆかりはさやさんと仲いいのか?」
「よく遊びに来てくれますよ」
「というか、ウチが仲いいのはさやさま以外はもうひとりくらいしかいない。ウチって美人じゃないからあんまり相手にされてなくて」
 ゆかりは可愛い系だから美人じゃないというのも判るが、さやはかなりの美人だろ? そのまま言うと地雷そうだから、別の言い方をしたけど。
「ふたりとも可愛いし、美人だろ? 俺から見たらだけど」
 さやはぽっと頬を染め、ゆかりはでへへと照れている。可愛いとか美人と言われるのに慣れていないのかもしれない。
「他の人みたいにぽちゃっとしたアゴじゃないし、第一動き回ってるでしょ?」
「下ぶくれが美人だってのは知ってるが、動くのもダメなのか?」
 ゆかりに言ったのだが、さやが答えた。
「部屋の中でも立つのは下品とされてますし、不健康なのがいいと言われますから」
「なん……だと?」
 ふと、あることに気づいた。
 下ぶくれ、不健康、部屋で動かない……ニートでオタク、いやオタクでニートか、どっちでもいいが、平安美人との意外な共通点を発見してしまった。
「笑うのだって、扇子で口元を隠して、オホホホっていうのが美人なの。なんでだかあんた分かる?」
「大口開けて笑うのは下品だからだろ?」
「ホント物を知らないのね」
「知らなくて悪かったな!」
 というか、現代人にリアル平安時代人のことが分かるか。
「白粉を塗っていますから」
「そうそう、美人さんは真っ白なのがいいからって厚く塗るから、口を開けるとひび割れちゃうからって開けられないんだよ」
 さやとゆかりで答えを言った。
「マジか!?
「「まじか?」」
「いや、本当にそうなのかという意味だ」
「真面よ」
「真事です」
 ふたりの適用力が凄い。というか、俺、この時代にマジという言葉を残してしまった。
「でも、ウチよりさやさまの方が美人から遠いかも」
 不思議そうな顔のさや。そりゃそうだ。ゆかりの方が遠いっていうなら分かるけど。
「なんでさ」
「さやさま、胸が大きすぎるのよね。もうちょっとこぢんまりしてないと」
「ああ、お前、ちんまりというか、ツルペタだもんな」
 俺って正直者だな。
「何? 蔓塀垂って? 意味は分かんないけど、結構イラっと来る響きね」
 明治まで、もしかすると戦後すぐくらいまで胸が大きいのは良くないとされてたかもしれない。戦後に欧米の美的基準が入って変わったから、平安時代とは真逆だな。江戸時代だって受け口が美人だったし。
 そんなことを言われたためか、さやは胸に手を当てている。
 そうか……胸、大きいんだ……。俺はガン見してしまったが、十二単の上からでは何も分からなかった。そんな視線に気づきもせず、さやは俺を見て微笑んでいた。
 しばらくすると、人が来てさやに何かを手渡すとすぐに立ち去って行った。手渡されたのは着物である。さやはそれを俺に差し出して言った。
「その格好では目立つからと狩衣をお貸しくださいました。そのまま上に着てください」
 で、ささ、お召し替えをなどと言う。まあ、脱ぐわけじゃないから簡単だけどね。
 狩衣というのは、その名の通り、狩、つまりスポーツハンティングなどの際に着るスポーツウェアである。正装が束帯でフォーマルスーツ、衣冠がビジネススーツなのに対し、狩衣はジャージのようなものだったりする。着付けなんて分からないから、さやに手伝ってもらってやっと着た。
 大事なのが冠り物で、人前で外すことはありえない代物である。道隆さまが酔って人前で烏帽子を取ったことが書き残されているくらいなのだ。
「では参りましょう」
「どこへ?」
 うん、ゆかり、いい質問だ、俺も今聞こうと思っていたところだ。
「伊周さま、定子さまのところですよ」
 さやはスダレを巻き上げ、こちらへというので連れだって歩く。ゆかりも「ウチも行く」と言って付いてきた。さやが止めなかったのだからいいのだろう。
 というか、ゆかりって何なの?
「なあ、ゆかり、お前のお父さんって何て名前?」
「ウチのお父さま? 藤原為時だけど?」
 え? 藤原為時は紫式部の父親でって、こいつが紫式部ってことか!? ふたりは遭遇していないらしかったのに、仲良しさんじゃないか。いったい、この後ふたりに何があるのだろうか?
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