印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 7 -
 俺たちは内裏を出て、東側の門へ向かった。
 宮城を出ると伊周さまの屋敷は結構近く、想像通りデカかった。左京二条だから、宮城を出るまでの方が遠いくらいだ。藤原氏の頂点に近い人だもんな、ジェットコースターみたいな人生、いやフリーフォールか、そうなるのは知らない方がいいだろう。というか、恩返しのために、それを知っている俺は先手を打つべきかもしれないんだが。
 この時代、貴族の男はいわば婿に入ることになり、夫婦になると夫が妻のところに通うことになる。通い婚だな。あるいは、本当に妻の家に入り、同棲したりする。そのためには、どこかで見初めるか情報を得て、歌を送って仲良くならないといけない。見初めるといっても、直接見ることは非常に希で、スダレから出ている着物や髪だけが頼りだ。だから、着物や髪を長くしているらしい。白粉べたべたなのも、暗い夜によく顔が見えるからみたいだが……怖いだろ、逆に。後はどこに娘がいるとか、そういう噂を頼りにして接近したりするらしい。
 そんな、相手を見たこともなくていいのかというと、大丈夫なんだ。
 女性のところに連続二夜を通い、三夜目には三日夜(みかよ)の餅を供え、翌朝になると露顕(ろけん)といって彼女の親兄弟などとご対面、それで祝宴があって夫婦となるのである。つまり二夜までで止めておけば、夫婦にはならない。お試し期間が二日あるってことだ。クーリングオフ制度だな。それでどういう立場になるかは知らないけど。
 そういうこともあっての、伊周さまの屋敷は誰のものなのだろうという疑問なのだけれど、いきなりは聞けない。もしかしたら、ご自分の持ち物なのかもしれないし。
 ここを使うようにと通された部屋は下男用とかではなく、結構いい部屋だった。現代の四畳半よりは広い。
「壊されては困りますが、光のいいように直してもいいですよ。下女に世話をさせますからね。では、後ほど」
 そう言って出て行かれた。
 部屋といっても、何にもない。ソファーやベッドがあるはずもなく、テレビもパソコンもない。ただの板の間である。
 窓といっても雨戸のような板張りだ。天井も床も壁も戸も全部板、ガラスも紙も使われていない。この雨戸を障子といい、跳ね上げ部分は蔀(しとみ)という。障子というと障子紙が貼ってあるのを思い出すだろうが、あれは明障子というもので、この時代にはまだなく、平安末期に登場するものだ。
「光さま、よろしいでしょうか」
 開けたままの戸口から声がした。見ると結構可愛い子じゃないか。多分、さっき世話をさせると言ってた子だろう。
「どうぞ」
 可愛い子の前だと、気取ってしまう男の性。
「あの、光さまのお世話をする、あかねです。よろしくお願いいたします」
「あかねか、こちらこそよろしく」
 少し話をして、やることもないのであかねは戻ってしまった。あいさつに行くように言われたのかもしれない。
 することもないので、横にでもなろうかと思っていると……
「遊びに来てやったわよ、感謝しなさいよね」
 声で判った、ゆかりだ。
「お前、出歩いていいのか」
 下働きの禿で内裏にいたと思っていたからそう聞いた。禿はかむろと読んで、おかっぱで下働きの童女のことだ。禿びでも禿げでもない。いや、ゆかりは禿びではあるけど。
「当然よ、さっきだって遊びに行ってただけじゃない」
「今まで何してたんだ、定子さまのとこで」
 お前って何なの?
「打ち合わせよ。って拍子を合わせることじゃなくて、作戦会議ってことなんだけど、意味判る?」
「ああ」
 作戦会議って、平安時代には絶対にない言葉だろうとは思うが。
「でね、ウチの羅述の題材を決めたから教えに来たの」
「へぇ、どんなのにしたんだ?」
 多分光源氏と何人もの女性の恋愛ストーリーだろ。実際に書かれるのはもっと後のはずだけど、今から温めておくのはありかもしれない。早すぎるのはどうかとも思うが。
「主人公はね、光源氏っていうの」
「あ、やっぱり」
「でね、色々と恋をする訳よ」
「あ、やっぱり」
「かっこいいお坊さんとか、イケてる蔵人とか、やんごとなきお方とか」
「あ、やっぱ……へ?」
「左少将さま×光源氏、ううん、光源氏×左少将さまもいいわね」
 そう言って目を輝かせていらっしゃる。
 く、腐ってやがる、早すぎたんだ……
 紫式部が腐女子になっちまった。ごめんな、平安文学。国風文化がBLってどうよ。
「な、なあ、そういうんじゃなくて、もっと健全な、男女の恋愛とかの方がいいんじゃないか?」
 ボンっと音がしたと思ったくらい、ゆかりの顔が真っ赤になった。
「だ、男女の恋愛!? この、へんたい、変態!」
 もう基準がまるっきり判らない。
「待て待て、男×男はいいのかよ」
「いいに決まってるでしょ! 男女なんてよくそんな恥ずかしいこと言えるわね」
 そうか、そういう年頃か……って、違うだろ。やっぱり理解不能だ。
「分かった、いや分からないけど、まあいい。で、わざわざ俺に言いに来たのって、なんでなんだ?」
「あ、あんたに手伝って、じゃなくて、あんたに手伝わせてあげるためよ」
 自慢じゃないが、BLなんて平安文学より知らないぞ、俺。
「ねぇ、聞いて、最初のところはもう決めてるの」
「どんな?」
「いい?『いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり』どう? かっこいい出だしでしょ?」
「それって、俺が主人公ってことは、お前、俺にときめいてんの?」
「ばっ、な、何言ってんの!? そんな訳ないでしょ!」
 やっちまったな。平安文学の最高峰のひとつとされる源氏物語が、今まさにBLモノとして書かれようとしているのだから。後に内容が改められ、十何年後かにはちゃんとした源氏物語となることを祈ろう。
「で? 何を手伝えっていうんだよ」
「色々と教えて欲しいのよ。男と男で何をするのか、とか」
「知るか! 考えたくもないわ!」
「じゃあさ。何かこう、名文句とか、やらせてみたいこととかない?」
 名文句ってのは名セリフのことか。男として、言ってみたいこと、やってみったいことはいくらでもあるが、いきなり言われても思い出せるものでもない。
 で、最初に思いついたのが、これだ……
「俺は海賊王になる!」
 言い切った。
「意味は分からないけど、何かかっこいい! 手伝ってくれるのね」
「当たり前だぁ!」
 これも名セリフなのだが、多分気付かなかっただろう。しかも、手伝うのを了承したことになっちまってるし。
 思いついたのが、この海賊王と『ぶったね、二度もぶった。オヤジにもぶたれたことないのに』だったから仕方がない。いや、BLだと、それもアリなのかもしれないが、ぶたれるとかってもっと怖い展開になりそうだからな。光源氏が陵辱されるってどうよ。
 まあ、ある意味、源氏物語を絶賛凌辱中だったりするんだが。
「よし、じゃあ、光源氏は海賊で、仲間を集めて船出する、っと」
 メモしてるし。
「ねえ、子供を拾って、鍛えて海の男にするってのもありよね」
「ああ、あるだろな、健気な子供を絡ませると人情話にもなるし」
 映画やドラマでは、子供と動物には勝てないとも言うしな。
「うん、これいい。子供相手のも萌えるし、自分好みに育てるってのもいいわね。光源氏計画と名付けて……」
 方向性、違うくない? まんま光源氏計画って言ってるし。
 BLでショタって、源氏物語をどんだけ凶悪な作品にするつもりだ。
「港、港に男がいて……明石とか須磨とかかな……」
 ゆかりはひとりで考えてメモってる。俺が口出しする度に、悪い方に転がっている気がしてきたぞ。
「頼むから男の友情を前面に押し出してくれ」
「分かった、男の誘情を全面に押し出すのね」
 ちゃんと伝わった気がしない。
「あんたも何か書いてよね。定子さまとさやさまも書くって言ってたから、みんなで書いたのを一冊にまとめるの」
「同人誌か?」
「道人詩? 憧尽誌! いいわねそれ。憧尽誌! 羅述の憧尽誌!」
 ゆかりがひとりで盛り上がって、やっと帰ったのは食事の用意ができたとあかねが告げてきてからだった。紙を山ほど持って来させ、山ほど残して行ったのは、また来るということだろうか?
 勘弁して欲しいなぁ。
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