印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
携帯・スマホからもご覧いただけます⇒

第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




  (ルビ表示が正しくない場合)


横 縦     並 大 特大     G M
- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 9 -
 目が覚めると、そこはいつもの自分のベッドだった。
 などということはなく、目の前にはあかねがちょこんと座って見ていた。
 って、かなり驚いたぞ!
「おはよう、あかね」
 と、やっとのことで言った。
「おはようございます、光さま。お召し替えを」
 こういうのって平安貴族になった気分だ。伊周さまのところで良かったなぁ……
 着替えながら、朝食は? と聞くと、まだですが? と言う。
 じゃ、なんで起こすの?
 着替えてあかねもいなくなると、ボケーとするしかやることがない。ふと思い立ち、時間を止めたり、進めたりできないものかと試してみる。
 結果、まったく分からない。なぜなら、対象物がないから。
 そうだ、あかねで試そう。
 って、どうやって呼ぶんだ?
 取りあえず探しに行くしかないか。
 立派な屋敷とはいえ、ちょっと探せば見つかるはずだ。
 きょろきょろ、うろうろ、俺は不審者か?
 と、あかね発見!
 スダレの向こうで何かやっている。スダレというものは、明るいところから暗いところは見えにくく、逆に暗いところから明るいところは見えやすい、マジックミラーのようなものだ。あかねがいるのは明るい側で、俺は暗い方、つまり、向こうからこっちは見えにくいが、俺からはよく見えるという訳だ。
 洗濯が終わったところだろうか。声を掛けようとして、止まった。
 俺が。
 なぜなら、あかねが脱ぎだしたから。
 この時代は現代のような風呂はなく、サウナのようなものがあるのと、体を拭くだけだが、行水、沐浴というのはある。その行水が繰り広げられるであろうことを、俺の本能やら煩悩やらで悟った。
 毒、それは生物の生命活動にとって不都合を起こす物質の総称である。
 いやぁ、目の毒だね。
 だって、見てたら全部脱いじゃったんだもん。パンツまで。
 あ、パンツって下袴のことな。実際あれが最終防壁で、湯文字だの腰巻きとかはもっと後の時代だ。緋袴ともいうけど、色的に腰巻きも同じだな。巫女さんも正式なら、あの緋袴の下に何かを穿いていてはいけないと思う。
 ともあれ、あかねは全裸、すっぽんぽん。
 何と言うか、体の一部が活動するのに不都合な状態になってしまった。
 なるほど、毒だ。
 現代なら犯罪行為だが、平安の世のこと、まったく問題ない。
 じっくり観察していると、あかねはこちらを向いてにっこり微笑んだようだった。気づいていて、わざと全部脱いだのかもしれない。
 ならば俺も是非一緒に行水を! と思った瞬間、大音声が響き渡った。
「コラーッ! エロガッパァーッ!」
 俺は実際に見聞きしたことをできるだけ忠実に書いているつもりだが、言葉の壁はどうしても残る。平安時代の単語や発音をそのまま書いたのでは意味が分からないだろう。
『コラ』というのは、明治維新後、薩摩(鹿児島)出身者が東京の警官に多く、鹿児島弁の『コラ』というのが広まったものだ。『エロガッパ』については言うべきにもあらず。言うまでもないっとことな。現代人に分かるように書いていると思ってほしい。
 で、その声の主は、ゆかりだった。見たことのない女の子を連れている。
 目をあかねに戻すと、あろうことか既にいなくなっているではないか。ゆかりが大声を出すからだ! この責任はどう取ってくれるんだよ。
 なんて言えるはずもなく、ぷんすかしているゆかりに、ちょっとこっち来なさいよと引きずられ、部屋に戻された。
「で、昨日の今日で何の用だ」
「失礼ね、せっかく来てあげたのに。絵が描ける子を紹介しようと思ったのよ」
 見ると、ボーとした無表情な女の子が「……しずか」と言った。良く言えば神秘的、悪く言えばアホっぽい。まあ、可愛いことが救いだろう。何か、俺の周りって結構可愛いのが集まってきているな。現代基準でだから、平安人のみなさんから見ると、なんでそんな貧相な不美人ばかり集めてるんだって思われるかもしれないけど。
「しずかはね、すっごく絵が上手いの。ぱぱってなんでも描けるんだから」
「……絵は好き」
 しずかちゃんか……源氏じゃないよな、源のしずかは色々まずいから。
 ゆかりが何か耳打ちすると、しずかは「……分かった」と言って絵の準備を始めた。硯で墨を擦り始めたんだが、この時代、やっぱ墨だよな。
 すりすり、すりすり。
 (中略)
 すりすり、すりすり。
「長げぇよ!」
「……時間をかけてゆっくり擦らないといい色が出ない」
 で、仕方なしに待っていると、墨を擦っていた何分の一かの時間で絵を描いてみせる。なるほど、筆遣いが凄い。筆を使い慣れている証拠だな。問題はその絵の内容だ。
「これ……何?」
 描いた絵を見て、俺は耐えられず聞いてしまった。
「……君、光の君」
 やっぱりか。
 似ているかどうかは別として、身体的特徴、特に下半身がリアルに描かれていて、それこそ身に覚えがあったし。
 絵は全裸、すっぽんぽんだったのである。
「なんで、こんな正確に……ここまで細かく……描けるんだ?」
「……モノの本質を見極めるのが得意」
 いや、そういうレベルじゃないだろ。もはや透視か念写だからな。しずか……恐ろしい子!
「超能力者か?」
「何言ってるのか分からないけど、この子陰陽師よ。安倍しずかって、京でも裏の最高位だもの。しずか、やっておしまいっ!」
「……エロガッパ、退散」
 俺に向かって呪を唱え、妙な手振りをしてきやがった。
「……だめ、光の君はカッパじゃない」
 河童だったら滅されたか調伏されてたのかよ。人間でよかったぁ。
 安倍晴明の式神、護法童子というのが河童の起源という説もあるにせよ、河童はまだ知られていないはずなんだが。
 それよりも、だ。
「安倍で陰陽師って、まさか安倍晴明の身内か!?
「……そう。安倍晴明の末娘」
「凄え! けど、その陰陽師がなんで絵を描くんだ?」
「お札には書と絵が必要だから、描けるようになったそうよ」
 喋り始めるのが遅いしずかより先にゆかりが答えた。
「しずかって、そういうキャラなのか?」
「……伽羅、好き。渡来の伽羅を焚き込めてる」
 天下の安倍晴明だもんな、お香は風水・陰陽道でも使うし。多分、帝からの下賜とかもあったりして、いいの使ってんだろうな。って、俺が言ったのはその伽羅じゃないけど。
「系で言うと、さやさんは癒やし系、しずかは不思議系、ゆかりはオカシイ系だな」
「え、ウチが、お、おかし?」
 なぜかゆかりは照れている。
 おかし、をかしは枕草子によく出てくる、趣があっていいという意味だ。対義語は、わろし。お菓子系でもスイーツ(笑)でもなく、『どこかおかしい』という意味だったんだけど。訂正しない方がお互いのためなので黙っておこう。
 そんなやり取りの間もしずかは、こちらを見ては筆を走らせていた。いったい何枚描くつもりなのだろう。
 しばらくして、やっとあかねが朝食だと言って来た。
 遅いって! もうじき昼だろ。
 俺は伊周さまと、女の子は女の子で食べるそうだ。
第1巻:page 10 < 次  枕部之印  前 > 第1巻:page 8

【お知らせ】
広告のお申し込み・当ページプログラム販売など承ります。委細メールにて。
(著作表示より送信)
 
▽ 基礎知識 ▽

平安用語の基礎知識
 
関連用語の基礎知識