印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 10 -
 朝食は質素だった。
 この時代、というか明治期までずっとだが、日本人にはタンパク質が圧倒的に足りない。牛や豚などの獣肉をほとんど食わないからだ。食肉禁止令が何度も出されているのだから、禁止するほど食べている人がいたということではあるのだが。
 食えないかな……というか食いたい。ひとり暮らしだからとステーキを週四日食べて、野菜をほぼ食べなかったときはちょっと反省したけれど。
 食事している伊周さまの雅な姿が眼に入る。今は平服で直衣(のうし)姿だ。
 枕草子が愛読書だが、装束というか衣装というかは詳しくない。興味がないのと色々と面倒だったからだ。しかし、いざ自分が着る立場になると、気にしないでもいられないと思うようになるものだ。
 俺の着ているのは伊周さまから借りたものだから、かなり上等なものだろう。ただし、俺のは誰でも着て良い色である。ファッションとしての色もあるが、地位としての色があって、誰でも好きに何色でも着ていいというものではないのだ。禁色(きんじき)っていうやつである。
 伊周さまは黙って食べているのだが、どうも食が進まないご様子だった。こちらの視線に気づいたのか、照れ笑いして言われた。
「昨夜は少々御酒が過ぎましたね」
 要は二日酔い、英語で言えばハングオーバー。
 俺が平気なのは度数が低かったからだろう。
「今日はこれから出かけますが、ここに居てください。使いの者をやりますから、そうしたら一緒に来てくださいね」
 上品、丁寧、男前、俺が女だったら惚れること間違いなしだな。
「あの、これからお仕事ですか?」
 昼近くに朝食を食べて、ゆっくり仕事に行くんだから、やっぱり貴族はいいなと思った。
「いえ、仕事は済ませましたよ。これから父のところへ行かなければなりませんので」
 流石、伊周さま、仕事なんて朝飯前なんだ。
 で、思い出した。出仕は朝にするものだった。早朝から出勤して昼前で終わり。朝食後は自由時間になる。ずっと半ドン。
 そうだ、貴族になろう。
 
 部屋に戻ると、ふたりの女の子はもう何か作業中のご様子。話しかけずに見守ることにする。
 それにしても、しずかは静かだが、ゆかりは賑やかだな。
「おい、にぎやか」
「なに晴明さまと同じこと言ってんのよ」
 あ、やっぱ言われてたか、しかも安倍晴明に。
「もうじき迎えが来ると思うんだが、そしたら行かなきゃならないんだ。お前らどうすんの?」
「どうせ内裏でしょ? 一緒に行ってさやさまと打ち合わせするわ」
 内裏に『どうせ』って付けるか普通? つまり、まだ帰らないってことか。
 やることもなくぼーっとしていると、思い出した。時間が止められるか、早く進められるか試すつもりだったんだ。
 高校の授業中によくやっていたことだ。ストップウォッチで何秒ジャストで止めるとか、何秒息を止めていられるかだとかと同じことで、要は暇つぶしとしてやっていて、時間が遅く進むことに気づいてからずっとやっていたのである。
 ある日、時間が止まっていることに気づいた時は驚いたな。俺って凄えと思ったね。進められるか、あるいは過去に行けるかとかも試したが、結局止めることしかできなかった。まあ、普通に考えればそれだけでも凄いとは思うのだが。その力が暴走して、初めて過去にタイムスリップしてこのザマである。
 ともあれ、ぐっと集中して時間を止めてみる。
 止まれ!
 おお、ちゃんと止まったじゃないか。力は健在だ。
 ふたりともぴくりとも動かない。
 い、いたずらなんてしないぞ!
 ガキじゃないんだから。
 ガキじゃないんだから!
 自分に言い聞かせるように二度言った。
 時間を普通に動かしてから、早められないか試してみる。うーん、変わらないな。
 どんどん時間を進められれば、未来に帰れると思うのだが。
 ならば、あの方法で戻れないか?
 現代になるまでコールドスリープとか時間を止めて寝てるとか。
 どこかに『対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェース』はいないだろうか。
 いや、この手はどうだ?
 未来にメッセージを残して、タイムマシンでネコ型ロボットに助けに来てもらうとか。
 だめだ、フィクションのネタしか思いつかない。
 ムダな思考で暇を潰していると使いの者とやらがやって来た。
 十五・六歳くらいの男の子なのだが、中性的な声で、顔立ちも女の子っぽい子だ。蔵人のぱしりをやっているらしかった。
 その子を見て、すぐにゆかりがしずかに何か言い、しずかが絵を描いていた。モデルというか、エジキというかだな。
「ゆかりさま、お止めください」
 とか言ってるから、顔見知りなのだろう。
 諾(なぎ)と名乗る少年がここだけの存在であることを祈った。マジでエジキとなって、諾・ハーマイオニーとかやらされるかもしれない。意味が分からないという人には、男の娘と言っておく。もっと分からないという人には、女装……最初にそう言えばよかった。
 ゆかりと諾の掛け合いは面白かった。
「諾、ゆかりさまじゃなくて、お嬢様と呼んでみ」
 素直にそれを実践する諾。
「お、お嬢様、お止めください」
「いいではないか、諾、そこへ直れ!」
 なんとなく執事とお嬢さまをやらせたかっただけだが、結構ハマってるな。
 まあ、俺的には男の娘じゃなくて、父との約束で男装させられている美少女とかの方がツボなんだけど。それと『ホントは女の子だったの……』もいいが、『俺は女だぁ!』も趣があっていい。
 そんなんで出かけるのを忘れていたが、思い出したので出かける支度をしようと、あかねを呼んでみた。大声で呼べば来るんだな。
 諾によると伊周さまから束帯、つまり正装で来るようにとのことだったし、あかねも言われていたのか束帯を用意していた。伊周さまのお古だが、実家が大金持ちだからきっと凄い数持っているのだろう。
 そういえばさっき俺のを作ってくれるって言ってくれてたっけ。
 しかしこいつら、人が着替えるのに誰も気にしないな。いとやんごとなき方ともなると、トイレの後も自分じゃ拭かないらしいから、そういうのは平気なのかもしれない。
 というか、トイレってないし。女性は樋箱(すのはこ)ってのに、砂とか入っていて、そこにする。現代の猫と同じだな。男性は外のそこらで適当に。そりゃ疫病も蔓延するはずである。
 もっと後の時代のフランスはベルサイユ宮殿ですらトイレはない。女性も立ったまま外でしたんだそうだ。あのふわっと広がったスカートはそのためでもあったらしい。
 着替えの途中、あかねが何か必要以上にくっついてくる感じもがあるが、こっちは覗きという後ろめたいこともあるので何も言えない。ゆかりは着替えを凝視しているし、しずかはぼーっと見ていて、諾は手伝いましょうかなどと言う。
 こういうのに慣れないと貴族じゃないんだろうな。
 着替え終わって、諾を先頭に連れだって歩く。喋っているのはゆかりだけだった。
 ほどなく宮城に入るが、誰何されることもない。束帯で日中入るのは誰でもOKらしいし、ゆかりとしずかは顔パスっぽい。
 入ってすぐにふたりとは別行動になり、彼女たちは内裏に入っていった。諾に案内されたのは、当然のごとく、伊周さまのところである。
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