印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 12 -
 三人で内裏に入り、清涼殿を目指す。俺はふたりの後を歩いて行くだけだ。
 清涼殿にどきどきで昇殿し、御簾が正面にかかる部屋に入った。これまでスダレと書いていたが、ここでは御簾でないと雰囲気が出ない。
 座して手を着く。俺は真似しているだけだけど。
「やっと来ましたね、待ちかねました」
 明るい少年の声だった。おじゃるとかごじゃるを期待していたんだが、普通だな。
 御簾を上げさせて帝は言われた。
「面を上げて、朕に色々話を聞かせてください」
 あそうか、天皇の一人称は『朕』だもんな、ちなみに英国女王の一人称は『we』だ。
 帝を直接見ると、俺が言うのもなんだが、利発そうな感じがした。
「主上は、今日もお元気で何よりです」
 気心が知れているのか、伊周さまは気負わないご様子。まあ、従兄弟だからな。
「主上、囲碁はなさらないのですか?」
 ちょっと寂しげな伊佐である。
「朕は囲碁をして、話を聞きます。厩戸皇子は七人の話を一度に聞いたそうですから、朕にもできるはずです」
 厩戸皇子ってのは聖徳太子のことだ。帝に言い切られたら伊佐も従うしかない。
 ちょっと言い方が子供っぽいかな。
 って、子供か。
 帝は話に夢中になり、伊佐にたしなめられたり、膨れられたりしながら時が過ぎていった。
 未来人というのを疑う様子はまったくない。怨霊だの天狗だのも信じる人たちだからな。偉いのは、未来についての話はしても、帝やその周りの人がどうなるかは一切お聞きにならなかったことだ。前もってそう言われていたのかもしれない。だから、聞かれたのは当たり障りのない内容だったし、現代人なら普通のことばかりだった。史実だと満三十一歳になったばかりで崩御されるから、後二十一年と一月半だ。来月の誕生日で満十歳になる子に言う話じゃない。
 質問して、俺が言い淀んでいると、「あ、いえ、この話は聞かなかったことにしてください」などとおっしゃる。賢くて性格もいいな。
 帝が碁盤に向かれているとき、俺は、この時代について考えていた。この時代、かなり寿命も短い。確か、男性三十五歳、女性三十歳だとか。俺に医学とか薬学の知職があればなぁ……ペニシリンとか作っちゃっうんだけど。まあ本当にペニシリンを作ると、耐性菌が早く出て、その後が大変なことになってしまうのだが。
 道隆さまは糖尿病だったというが、食べ物も偏ってるんだよな。トップクラスの貴族はみんな糖尿病みたいだし、痛風とかも多そうだ。料理は得意なので、そういうので改善できないだろうか。
 そんなところへ、女性が入って来て声をかけてきた。普通は外から入る許可を得るべきだろうが、そういうのが必要ない間柄なのかもしれない。
「懐(やす)くん、混ざってもええ?」
「あ、このちゃん、もちろんです」
 懐くんというのは、懐仁(やすひと)の君ということだろうか。現代語ではものすごくフランクに聞こえる。光君を光のキミと読むか光クンかではずいぶん印象が違うだろう。
 だが、このちゃんというのは?
 そう、入って来たの女御定子さまだったのである。
「あ、光の君もいてはったん? ちょうど良かったわ」
 その一言があったので、紹介されることもなかった。というか凄くない? 俺、こんなメンバーに入ってるし。
 いつもの呼び方なのだろうか、誰も不思議がらないので、俺が聞くしかなかった。
「あの、失礼ながら主上、『このちゃん』というのは?」
「もちろん定子ちゃんのことですよ」
「なぜ、『このちゃん』とお呼びになられるのですか?」
「ああ、そのことですか」
 ちょっと恥ずかしがって頬をぽりぽり掻きながら、経緯を話してくださった。
 この話を理解するには、まず、平安の世では歌、和歌が教養であり必須技能だったという前提知職が必要だ。
 一番有名なものに『難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花』というのがある。難波津の歌と言うと、誰でも知っている歌という意味になっていたくらい広く知られている。現代の競技カルタでは最初にこの歌が詠まれることになっているよな。だから、難波津の歌については当たり前過ぎて、説明の中には出てこなかった。
 印象的なのは『咲くやこの花』が上の句・下の句の両方にあることだろう
 で、帝が言うには、ちょっと前に難波津に一緒に遊びに行って、定子さまがあまりに可愛かったので、咲き誇る花のようだと思われたという。『咲くやこの花』が思い浮かんで、で咲いているのは『この』という花だと思ったんだそうだ。子供だからな。で、『このちゃん』と呼ぶようになったとか。
 殆どノロケだ。
 ちなみに、この歌は競技カルタの最初に詠まれるものだが、百人一首は鎌倉時代に作られるはずのもので、清少納言の歌はまだ詠まれてさえいない。
「「そうだったんですか」」
 双子のユニゾン。
 訳を知りたかったけど主上になんて聞けない、ということだったらしい。俺は、気軽に聞いちゃったんだけど。
「このちゃんも碁を打ちませんか?」
「今はやめとくわ。こんどふたりの時にしよな。それに今、忙しいし」
「何が忙しいんですか?」
「みんなで羅延書いとるんよ。憧尽詞ぃゆうんやて。ウチは、少年帝と年上女御の恋物語で、面白うて泣けるのにしよ思て」
「もしかして、朕とこのちゃんのことですか」
「せやよ。あったことばかりやのうてぇ、こうだったらええなぁいうことも書くつもりなんよ」
 あいつら、マジにラノベの同人誌作る気だな。
「そうそう、光の君、この後時間あったら、ゆかりたちのとこ行ってな。ゆかりから光の君がいてたら絶対に連れて来い言われてもうて」
 もしかすると、そのために定子さまを送り込んできたのかもしれない。
「承知いたしました」
「登華殿やで。この清涼殿から奥ぅに行って、弘徽殿のまた奥のな。ウチの部屋が『本部』なんやて」
「本部、ですか……」
 英語で言うとヘッドクォーター。
 しかし、伊周さまに遮られた。
「だめですよ、この後は父と会う約束になっていますから」
「せやの? なら、それが終わってからでええかな。どうせ一日おるやろし」
 いや、そうなると俺もずっといないといけなくなるのだが? というか、道隆さまに会うの? 帝より緊張するかも。
「そうそう、朕からも言っておくことがありました」
 まじまじと俺を見てるから、俺のことだよな?
「これからは源朝臣(みなもとのあそん)と言ってください。朕が認めちゃいます。もちろん光源氏も使ってかまいません」
 つまり、正式に源になってしまった。帝が言うんだからいいのだろう。
「それと、苗字がないと不便もあるでしょうから、朕の一宮から取って、一条なんてどうでしょう。役は後で関白と相談してください」
 後に自らが出家後に名乗るはずの一条を、この俺なんかに下賜しようというのだ。
「ははぁ、謹んでお受けいたします」
 ふかぶか。
 名前が決まってしまった。こんなに適当でいいのだろうか。言葉の流れから、きっと先に考えてあった名前なのだろうとは思うけれど。
 フルネームは『一条 某 源 朝臣 光』苗字、役職、氏、姓、諱の順。役職はまだないけどな。
 他の人はというと、例えば『織田 右大臣 平 朝臣 信長』ってな具合だ。
 本当は、皇族の子孫(臣籍降下)に付けられるのが氏であって、六十五代花山天皇の花山源氏、六十七代三条天皇の三条源氏などがあるが、六十六代一条天皇には一条源氏というのがない。俺、一条で源氏だって言われたぞ? それも帝から直接。一条源氏じゃん!
 そうだ、子孫を残そう。
 光源氏はさておき、一条光ってのもカッコいいな。
 俺の名前は一条光、俺の名前は一条ヒカル!
 カッコ良すぎだ。
 きゅーん、きゅーん、空だって飛べるさ。
 役って言ってたけど、何か役に就くのだろうか。昨日からちょっとお願いしようと考えてることがあるんだけど。
 このちゃん、いや定子さまがいらして、それまでの話も一段落となった。一条帝は定子さまにぞっこんらしい。
 善き哉。
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