印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 17 -
 まず、諾を探さないといけない。
 ゲストキャラでゆかりたちのエジキにならないようにと言っておいて、自分で巻き込んでしまうことになるが、背に腹は代えられない。一番無害そうな諾に読んでもらおうと思ったのである。
 ぐるぐる走り回っていても気にもされないのは、束帯を着ているおかげだろう。
 で、やっと、手がかりを見つけた。
 伊周さまを。
「伊周さまっ!」
 声に気づいて手を振ってくれる。
 走って近づいて、俺ははぁはぁと息を切らせていた。
「光、そんなに私に会いたかったのですか」
 それを聞いて、心に念じた。違う、伊周さまはそういう属性じゃなくて、冗談を言っているだけだ、と。
「お会いしたかったのは間違いじゃありませんが、ちょっと用があって、うちに迎えに来た諾を探していたんです。どこにいるかご存じありませんか?」
「諾ですか? ここにはいませんよ、うちに帰りました」
「そうですか……そこは遠いのでしょうか?」
 伊周さまは不思議そうな顔をされた。何か変なことを聞いただろうか。
「諾の家はどちらで、そこは遠いのでしょうか」
「どちらも何も、うちですよ、うち。私の住まい。光だって住んでいるのに、遠いのかとはどういう意味ですか?」
 あ、そっちのうち、か!
 諾は伊周さまが面倒を見ているのだという。屋敷で見ていなかったのは、宿直でいなかったのだそうだ。何だ、普通に帰れば会えたということか。
 しかし、何という好都合。
 伊周さまにお礼と別れを言って、急いで帰った。仕事の話はし忘れたが、帰ってからでも問題ないだろう。
 屋敷は近いはずなのだが、ちょっと道に迷った。ひとりでの移動が初めてで、似たような町並みで紛らわしいからであって、決して俺がバカだからではない、と思いたい。
 帰り着いて、諾を探して用件を伝えた。その前にお召し替えをされてはいかがですというので、あかねを呼んで着替えてからの朗読会である。
「いんどぅれのおふぉんときにか、にょうんごかううぃあまたさんぶらふぃたまふぃけるなかに、いとやんごとなききふぁにふぁあらぬんが……」
 おお、ちゃんと読めるではないか。イントネーションは京都弁と似ているな。
 が、さっぱり分からん。
 女御がにょうんごとか、は行がふぁ行とか、発音もかなり違う。普通に喋っていると、意味が分かって意思疎通もできるのに、文章になるとまったく分からなくなるから不思議だ。枕草子が好きで愛読書だが、自慢じゃないが桃尻語訳全三巻である。平安文学でも、仮名でかかれているものは、基本的に話し言葉をそのまま書き写している、いわば口語(文語は漢文)だから喋っているのと同じはずなのだが。
 もうちょっと触れておくと、平安前期から鎌倉初期にかけて、後に『ハ行転呼』と呼ばれる音の変化があった。語中・語尾のハ行がワ行『わゐ・ゑを』に変わってしまうもので、現代では『ゐ・ゑ』は『い・え』に統合されて消失している。ハ行転呼は『~は』『~へ』の発音が『~わ』『~え』として残っているよな。ちなみにワ行のwu、ヤ行のyi・yeの仮名がないのは、既に音が失われ、『いうえ』に統合済みだから区別されず、仮名も作られなかったからである。ついでに言うと、L・R音も区別されず、全てラ行に押し込まれた。中国語にはある発音なのだから、日本語はまったく違う言語だということだろう。つまり、日本人のLR混同は仮名誕生のずっと前からという筋金入りなのだ。日本語は世界でも複雑な言語だが、五十音や単数複数同形、冠詞がなく男性女性名詞がないなど単純化されている部分もある。これは複数言語が統一された結果ではないだろうか。英語が他のヨーロッパ系言語より単純なのも同じ理由だと思う。
 閑話休題。
「諾ぃ、お前、これ意味分かるぅ?」
「分かりますよ、意味が分からないなら読めても何にもならないじゃないですか」
 俺が揶揄したと勘違いしたらしい。読めて意味が分かるなら大したものだ。
「違う、違う。お前には本当のこと言うけど、俺が読み書きできるのはこういう文字や文章じゃないんだ。できればなんだが、これを読んで、大体でいいからどういう話だったか教えてくれないか」
「いいですよ、これくらいささっと読んじゃいますから」
「ああ、頼むな」
 合掌して頼むとちょっと微笑んでくれた。で、実際サクっと読んでいるみたいだ。
 予想ではBLものになっているはずである。諾が腐っていないことを祈るばかりだが、男の子に読ませて、変に腐らせたらどうしよう。
「面白いですよ、これ」
 などとぼそっと言っている。目が輝いているようにも思えるが……
 待つことしばし。
 諾は、ふぅ、と息を吐いて、俺を見た。そんな目で見つめるなよ、気持ち悪い。
「まず、主人公は光源氏という若い殿上人です」
 諾が話し始めた。
 ちゃんと聞いていないと、ゆかりに感想が言えないので心して聞かねばならない。
「海賊王になると宣言して、仲間を集めて船出、色々な人と出会って、恋をしたり、戦ったり、楽しいことや悲しいことがあったりという内容です。結構、最後は感動ものでした」
「え、それだけ?」
「えっと、詳しく話した方がいいですか? ちょっと生々しいところもあって、恥ずかしいんですが」
 何を書いとるんじゃ、ゆかり!
「ひとつだけ教えてくれ。俺、いや主人公が恋する相手って、女の子だよな」
 頼む、はいと言ってくれ。
「はい、と、いいえです。男の人がほとんどですけど、男の人なんだけど女装している人とか、男の子を女の子として光源氏さまが育てるというのもありました」
「いや、それ全部男だろ! どこに、はいの要素があったの?」
「あ、女装とか女の子として育てるところです」
「つまり、全部男なのは間違いないのな?」
「はい」
 やっぱりだ。
 これはマズい。
 世に出してはいけないものが書かれてしまっている。
 どうしよう。
 俺が悩んでいると、きょろきょろ部屋の中を見回していた諾が不思議そうに言って来た。
「あの、光さま、まさかとは思うのですが、昨夜はどうやってお休みでしたか?」
「どうって、何か知らない布があったから、それにくるまって寝たぞ?」
「ムシロってないんですか? その上に布を敷くといいんですけど」
「ない、な。ムシロってどこにあんの?」
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