印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 21 -
 俺が考えたのは、まずタンパク質が足りないということからだった。
 肉を食えばいいのだが、それは今のところムリである。
 牛乳は奈良時代に飲むのが流行していて、今では牛乳からバターのようなものやチーズのようなものも作られている。醍醐味という言葉の元となる醍醐というものもあって、珍しくて貴重なものだったが、一昨日帝から頂戴したので伊周さまと食べた。醍醐は、伊周さまでさえ二度目だというのだから、本当に貴重品だ。美味いかと言えば美味いが、ベイクドチーズケーキを硬くして甘みが足りないやつという感じだった。
 ともあれ、どんな料理を作るにせよ、材料と調味料はこの時代のものしか手に入らない。
 そこで畑の肉、大豆に注目した。大豆はよく食べられていたが、まんま大豆、煮豆としてである。豆腐が作られるようになるのは室町時代で、豆腐から作られる油揚げが登場するのは当然その後のこと。油は主に灯油(明かり用)だが、食用にもされ、平安中期からある程度の量産がされるようになっていた。
 だから、豆腐も油揚げも作ろうと思えば作れるはずなのだが、ないものがある。
 豆腐というのは、大豆の汁、つまり豆乳ににがりを入れて固めるのだが、それがない。
 にがりというのは塩を作る工程でできるのだが、ここでは塩から作る。現代と違い、塩というのは海水を濃縮し煮詰めて作っているので、塩の中ににがりも含まれているのだ。
 では、どうやってにがりを作るかというと、塩をざるに広げ、それを受ける器に置く。
 それだけ。
 勝手に空気中の水分でにがりが溶け出し、下の器に溜まるという寸法だ。
 ただ、これだと時間がかかるので、濡らした布で蓋をし、湿度を高めてやった。
 作った豆乳に、手作りのにがりを入れ、素早く撹拌し、箱に穴を空け布を敷いて流し込み、重しをして水を抜く。何度か失敗したが、ついには豆腐が作れるようになった。
 その豆腐を一センチ弱くらいにスライスし、油で揚げる。これは絶対に二度揚げしないといけない。最初は低温、次に高温。こうしないと、中が開くようにならず、スポンジ(海綿)状になってしまう。低温で周囲を固まらせ、中は水分の多い豆腐のままの段階で上げ、高温の油に投入すると、中の水分が蒸発して膨張するため、油揚げも膨れ、中が開くようになる。なお、低温状態が長くてもスポンジ状になるので注意しないといけない。
 現代のものに比べると少し小さめな正方形の油揚げになった。正方形なので、対角線で切って三角形にする。
 これを油抜きするが、ザルに置いて熱湯を掛けるのではなく、俺のやり方はお湯でぐつぐつ煮るというものだ。油がエゴマ油なので、よく油抜きしておいた方がいいと思う。
 水にさらし、手で押さえて水気を絞り出したものを、鰹の干物で出汁を取り、甘みとして甘葛とみりんに近い三種糟という酒で甘みを出し、塩と味噌も少々入れた汁で焚く。
 醤(ひしお)というのがあり、味噌も作り始められているが、調味料ではなく食品扱いになっていて、少量をそのまま食べる。これが後にたまり醤油、醤油に進化していく。
 甘葛というのは甘い樹液を煮詰めたもので、甘葛煎(あまずらせん)というが、枕草子に甘葛とあるのでそう書くことにした。厨房に砂糖はなかったが、甘葛を見つけたので使ったのである。砂糖は存在こそしているが、宋からの輸入品であり高価で、しかも医薬品として使われているものなので、流石の伊周邸にも置いてなかった。三種糟は米麹と麦芽を合わせて作る甘いみりん系の酒である。煮切ってやれば甘味として使えるだろう。
 米はもち米なので、軟らかめに蒸す。
 炊くことも考えたが、もち米の炊き加減が分からないので止めた。失敗するともったいないし。
 普通の米はうるち米というが、どこが違うかというと、栄養価その他はさておき、吸水量と、それに伴う膨張率がまったく違う。これは実際に現代での実体験だが、うるち米しかなかったのにイカ飯を作って失敗した。もち米は少量の水で、加熱してもあまり膨らまなくて食べられるようになるが、うるち米は水分をかなり必要とし、かなり膨らむのだ。イカの中に閉じ込めた状態で、もち米は柔らかくなるが、うるち米では水分が足らずかなり硬かった。ちなみに、もち米とうるち米を半々にして、三十分以上水に浸けてからイカに詰めると良い。
 そうだ、今度はイカ飯を作ろう。
 もち米が柔らか目に仕上がったら、煮切った三種糟、塩と酢を混ぜておいたものをかけて熱いうち混ぜ、酢飯にした。
 酢は醸造(酒造り)があるので、当然ながらある。酢と酒は兄弟みたいなものなのだ。
 酢飯をお揚げさんに詰めるのだが、三角を開いて対角線を合わせて四角くしてから詰めた。
 よし、試食だ。
 見た目は三角のいなり寿司で、食っても違和感がない。周りに揚げの水分があるので、冷めてもあまり硬くならないだろう。
 久しぶりのいなり寿司だった。
 他の人たちは後七百年も経たないと食べられないものだから、感慨もひとしおだ。
 伊周さまに食べてもらおうと思った。荘園に行くからその時がちょうどいいな。それってピクニックじゃないか、ならば卵焼きも作ろう。
 鶏はいる。
 時間を告げる神聖な生き物とされていて、食べるのは禁止されている。が、実はこっそり食べられているし、玉子だって、ひよこにするか食べるしかないものだ。
 おおっぴらに食べられるのはまだ先だが、キジやハトなどはよく食べるので、それほど禁忌を感じるほどではないだろう。この辺りの間隔は現代人と逆だな。伊周さまの屋敷でも時を知らせるということで飼っていたし、やはり玉子は食べていた。
 これも鰹の干物の出汁と煮切った三種糟、塩とちょっとの味噌を加え、油を敷いて焼く。卵焼きにちょっと醤油を入れると、見た目は少し黒ずむが、味はぐっと良くなるので味噌を入れたのだ。醤油のアミノ酸、うま味成分によるものだが、誰でも分かるように、生玉子に醤油を入れただけで飯に良く合うのだから、不味い訳がない。
 試食してみると、かなり美味かった。
 そうやって俺が苦労して作った料理を、何の感慨もなく食べている少女がふたり。
「んまい、ろうやってつくんの?」
「……聞いても作れない」
「俺にもよこせっ!」
 奪い合って食った。
 ひとりで食うより美味いかもしれない。
 それに、美味いと言って食ってくれるって料理人冥利に尽きるな。
 違った、俺は料理人じゃない。
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