印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 34 -
 通勤・通学ラッシュの満員電車、この狭い中、新聞を四分の一に細長く折って読むおじさん、スーツにネクタイをきっちり締め汗だくのサラリーマン、こういうのって久しぶりだなと思った。
 ……と、朝か、夢だった。見る夢が現代なのは帰りたいという願望だろうか。ちょっとだけホームシックかもしれない。が、すぐにそんなの吹き飛んだ。
 障子も蔀も開いていないから薄暗い室内だが、少しは明るい。
 下半身というか股間に違和感がある。朝の生理現象なのだろうか、どこか変だ。
 見ると、玉藻にしっかり握られていた。
 ゲッ。
 玉藻は寝ているので、無意識なんだと思う。と、それを凝視して、何やら筆を走らせているしずかがいる。
 近づいて見たり、回り込んで見たり、筆の尻でつんつんしたり……匂いをかごうとしているので流石に止めた。
「しずか、何をしている」
「……観察」
「匂いもか」
「……それは興味本位」
「いいから止めろ、俺の理性が残っているうちに……」
 玉藻の手をどかし、裾を揃えた。
「……面白いことに気づいた」
「観察していてか? あんまり聞きたくないんだが」
「……枕みたいだった」
「そうか?」
 どの辺がとか、聞いたら負けなんだろうな。
「……だから名前を付けた」
「よし、最後まで聞いてやる。何て名前だ」
「……枕部佐のだから、すけべまくら」
「頼むから、それをゆかりに言うなよ」
 助平という言葉は知らないはずなのだが、なぜかそういうところを符合させる能力がしずかにはある。マジで広めないで欲しい。
 さて、玉藻のこともどうするか気になるところだが、料理もしなくてはならない。あかねを呼んで直衣に着替え、一緒に仕入れに行くように言った。
「お兄ちゃん、あたしも行く」
 ここに置くよりいいか。
「……もちのろん」
「なんだしずか、お前も行くのか?」
「……待って……来る!」
 な、何が来るの?
「おっはよー、って、なんで三人も女の子がいんのよ、こんな朝っぱらから」
 ゆかりだった。
「……違う、きの……」
 俺はしずかの口を急いで塞いだ。やましいところは何ひとつないつもりだが、絶対に何か言われると思ったからだ。
「きの? きのって何?」
「なんでもないって、今日は買い物に行くから、ゆかりごめんな、じゃ!」
 しゅたっと手を挙げて、出ようとした。
「……ゆかりごめんな、じゃ」
 しずかもしゅたっと手を挙げた。
 玉藻は何も言わずに付いてきて、あかねは会釈してそれに続く。
「ちょっと、みんなで行くんじゃない。ウチも行くから!」
 まあ、そうなるよな。
 騒がしくしていると伊周さまが見に来られたので、買い出しに行ってきますと伝える。
「凄いですね、光。女の子四人も連れて、分かりました、行ってらっしゃい」
 これを嫌みじゃなく言っているところが伊周さまの凄いところだろう。
 屋敷を出ようとするところで宿直帰りの諾とばったり遭遇したので、眠いという諾を強制連行した。ゆかりが。
「眠いんですよ、勘弁してください、お嬢様」
 まだお嬢様って続けてたのか。ごめんな、諾、すぐに帰れるようにするから。
 ということで、出発。
 市へ行ってみよう。常設ではなく、毎日あるものでもないが、多分大丈夫だろう。俺が市に行こうと思ってやっていなかったことは一度もないのだから。
 ゆかりの相手は諾がしてくれているから楽ちんだ。諾は女の子だけどゆかりは知らないかもしれない。
 市はちゃんとやっていて、ちょっとした食べられるものもあった。干した果物とか木の実とか、すぐに食べられるように調理されたものもある。菓子と書いてくだものと読むが、それはフルーツのことだ。小麦粉を練って紐状にしたのを揚げたのもあったが、そういうのは唐菓子と書いてからくだものと読み、源氏物語の『御くだもの』というのは唐菓子だという。この唐菓子は何となくかりんとうのルーツな気がする。
 ゆかりがはしゃいで買いまくって、食べまくっていた。うん、これはいい。諾がいると、ゆかりの相手をしてくれる。
 胡瓜があったが、珍しいかも。
 日本に入ったのは六世紀とも言われているが、普及しなかった。葉の形が徳川の家紋の葵に似ているため江戸時代中頃までは広まらなかったらしい。何が珍しいかというと、熟した実ではなかったからである。メロンやスイカは熟して食すが、小さな果実を間引いて漬け物にすることがある。その熟す前の状態が現代で売られている胡瓜なのだ。ピーマンもそうで、熟すと赤くなる。現代の胡瓜と違い、イボは鋭く白い粉を吹いいてて、しかも苦みもあった。
 萵苣(ちしゃ)は結球しないレタスの仲間、サニーレタスのようなもので、外側から掻き取るように収穫するので掻き萵苣という。ちなみに、サニーレタスは太陽のサニーではなく、作った人が車好きで車の名前から付けたそうだ。掻き萵苣はあまり生食されないが、よく洗ってさっと湯に通せば何かを包むくらいできるだろう。
 にんにくと栗も、使うかどうか分からないが日持ちするから買っておく。
 治部煮も作りたいが蓮根は見当たらない。植わっているのは見るのだが、食用ではなく、まだ観賞用のようである。蓮根は日本ではポピュラーだが、食用にしているのは世界でも中国の一部と日本だけという珍しい食材なのだ。
 干物類ではスルメだけ買い、肉類では野鳥ばかりで、それも大抵は干物になっているのだが生の雉があったので、三羽の羽根をむしってもらった。
 内臓だけ抜いて、数日軒に下げて置いたものだという。締めた直後より、置いて熟成させた方が美味いのだとか。大抵の肉や魚はそうで、ちょっとグロい言い方になるが、死後硬直している状態で食っても美味くないらしい。
 うるち米発見! やっぱあるんだな。もち米は白いがうるち米はちょっと透明っぽい。試しにちょっとだけ買っておく。米が一番高かった。
 買い物はこんなもんだな。
 荷物持ちは主に諾とあかねで重いのは俺が持った。
 ゆかりとしずかは唐菓子を抱えつつ食べ、玉藻は干したすずめをガリガリ囓っている。
 いやもう、人の視線が痛い。
 早く帰ろう。
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