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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 35 - |
屋敷に着くとあることを思い立ち、あかねに束帯に着替えさせてもらった。
「ちょっと職の関係で行かなくてはならない。連れていけないところだから、良い子でここにいろ。それから諾は寝せてやれ」 主にゆかりに言った。 「わかっら、まっれる」 口いっぱいに唐菓子を頬張ってゆかりが言った。しずか後は頼む、と言って、そのまま外に出た。 俺の部屋にゆかりとしずかと玉藻の三人を残すのは暴挙だが、いつも邪魔されるので仕方がない。何もないことを祈るばかりだ。 道を急ぎ、追っ手がいないことを確かめながら門をくぐって内裏に直行した。 ここでも追っ手を確認することは怠らない。 わざわざ着替えたのは、仕事というのを強調するためだ。そのまま出かけたら、そのまま付いてきそうだからな。 どこに行こうとしているかというと、さやのところである。 大抵はいないのだが、珍しく見つけることができた。 「さやさん」 と呼ぶと、俺を見つけて手を振ってくれた。 「おひとりですか? まあ、珍しい」 「さっきまで一緒だったんですが、うちに置いてきました。あの、ちょっといいですか?」 「はい。もちろんです」 にっこり微笑んでくれる。やっぱり、癒やされるなぁ。 「あの、ご飯のことなんですが」 「ご飯、とはなんでしょう」 「米を食べるのって、強飯以外に何かありませんか」 「うるち米というのを粥にすることもありますよ。固粥は水がなくなって柔らかいおこわのようですし、柔らかい水粥とか栗や小豆を入れた粥もあります」 「うちはいっつも強飯だったんですが、そういうのも食べられているんですね」 「そうです。めのこはそういうのが好きですよ。もち米は上流階級の食べ物ですから」 「なるほど」 久しぶり、というか、初めてこの時代に来たとき以来くらいのツーショットだ、もっと話をしたいな。 「あの、さやさんって結婚したりしてますか?」 「えっと、以前ちょっと。でも、今はそういう人はいませんから、ここで女御さまに仕えているんです。あの、光源氏さま、私にさやさんというの止めてもらっていいですか。さやとお呼びください」 「わかりました。では俺のことも、ただ光と呼んでください」 おお、前進したぞ! いい感じじゃないか。やっぱりおじゃま虫がいないのはいいな。このままもっといい感じになって、仲良くなって、ゆくゆくは、とか。 「ひ、光は、誰か好きな人はいるんですか? ゆかりとか」 「ゆかりは勝手に来てるだけですから。俺が好きなのはさやだけです」 「え?」 「あ……」 いかん、妄想が暴走してしまった。 でも、さやもまんざらではないのか、ちょっと頬を赤らめているようだ。白粉仮面の平安美人ではこうはいかない。赤くなろうが、怒ろうが、顔色どころか表情だって変わらないのだから。 ちょっと気まずくなってしまったが、ここで帰ってはいけない。なおさら気まずくなって、次に会いにくくなるからな。 どうせダメなら押してみる。 「ほ、本当なんです。さやが好きって、最初に会ったときから」 「わ、私も好きですよ、光が美人だって言ってくれたから」 お、いいかも。 それからちょっと話をして、また明日、食事に来るのを待ってますと言って別れた。 るんるんで歩いていたが、一計を案じ、難しい顔をして部屋に戻る。 玉藻はあいかわらず俺以外には冷たい声を出していたが、それでも言うことは聞くようで、ゆかりたちのいいおもちゃになっていたらしく、俺が帰ると「お兄ちゃん、寂しかったよぉ」と目を潤ませて、胸に飛び込んできた。 「コラーッ! 何やってんだ、そこのキツネーッ!」 「……ほら、ゆかりも飛び込んで」 というところにあかねが食事だと言ってきた。 おかげで、どこで何をしてきたかとか聞かれずに済んだ。 朝食には伊周さまと信長も戻ってきていた。どうやら、警備のために色々調べていたらしい。どこが危ないとか、どうすべきだなどと信長が伊周さまに言っている。 「そうそう、光。職の建物もあらかたできているので、もう少ししたら入れるだろうと思いますよ」 流石は道隆さまと伊周さまの力だな。めちゃくちゃ早いじゃないか。 「それは良かったです。伊周さま」 「それと、明日の食事にはもう二人くらい増えると思いますが、大丈夫ですか」 「はい。予想通りです」 数えたら十人だったので、十二人くらいに増えるかもと予想していただけなのだが、伊周さまは感心されたようだ。 「なるほど、未来人は大したものです」 まあ、訂正しないでおこう。 玉藻もいるから十三人だけど、とりあえず十四人としておくか。 食後、仕込み前に、ちょっと食休みしておこうと部屋に戻る。 「お兄ちゃーん、ゆかりがいじめるよぅ」 玉藻が飛びついてきた。 見るとしずかがいなくなっていて、玉藻とゆかりだけである。 「あれ? しずかは?」 「結界がどうとか言って、うちに帰ったわよ」 「ゆかり、お前は行かなくていいのか?」 「なんでウチがしずかのとこ行かなきゃなんないの? それよりさ、さっき、どこで何して来たの?」 「ちょっと調べ事をな。米の調理について、聞いてきた」 「ふ~ん」 疑わしそうなゆかり。話題を変えなければ。 「な、これから料理の仕込みとかするんだけど、手伝ってくれるか」 「うん、お兄ちゃん!」 「りょ、料理なんてしたくないんだけど、あんたのためならやってあげるわよ」 いや、ゆかり、それ、言い方はツンデレっぽいけど、セリフがツンデレになってないからな。 |
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