印Let's Write The Japanese First Light Novel.
Since 2012-06-01
Update 2014-07-01
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第1巻 時間と歴史

第2巻 羅述と衛姥

第3巻 事件と救出

第4巻 牛肉と麦酒

第5巻 旅路と佐渡


主要キャラ 画像



枕草子 原文 全323段




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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第1巻:page 36 -
 まずは外に出て、昨日採取しておいたイチジクのところへ行ってみる。
「何? これ」
 ゆかりは不思議そうに見ている。小鉢には白い液体が溜まっていた。
「イチジクの木から採った汁さ。料理に使うんだ」
 それから厨房に行くと大鍋に水を入れ、それが沸いたら火を弱める。一回り小さい鍋に牛乳を入れ、湯煎にかけてかき混ぜながら、温度を上げていくのだが、沸騰したお湯に湯煎してもどうせ温度が下がるから大丈夫だ。
 時計も温度計がないので勘に頼るしかないが、気持ちとしては七十度前後で二十分、あるいは六十五度三十分は低温殺菌したい。ある程度温度が上がったら火をかなり小さくしてやらないといけない。ゆかりたちにゆっくりかき混ぜさせ、その間に俺は火加減を見ていた。かき混ぜないと膜が張るからな。
 殺菌が終わったら、火から下ろし少し冷ましておく。殺菌の後、乳酸菌あるいはヨーグルトを加えるといいらしいのだが、ここは酪を少し加えてみた。それにイチジクの樹液を加え、よくかき混ぜて、また放置する。
 で、牛乳がどうなったかというと、固形分と水分に別れていた。
 これを弱火で少し加熱し、かき混ぜる。温度を上げすぎてはダメだ。適当なところで火から下ろし、いつもは豆腐作りに使っている箱に流し入れ、重しをして水分を抜く。
 この牛乳の固まったものをカード、水分のところをホエーという。こいつは水抜きしたものの保存方法で名前が変わるが、ここではそれをもう一度八十度以上の湯に浸けて練り、粘りが出たら、水切りして更に捏ねる。熱いからしゃもしなどで練らないといけない。ちなみに、しゃもじは弥生時代から既に使われていたものだ。
 捏ねてつるつるになったら今度は水に入れて冷まし、適当な大きさに切り分けたら、その後塩水に浸けて塩味を付ける。職人さんは熱いまま千切って丸くしたりするが、俺がやったら火傷するに違いない。
 これででき上がったのがモッツァレラチーズという本邦初公開の食べ物である。
 本当なら羊や仔牛から採れるレンネットというものを使って固めるのだが、代わりにイチジクの樹液を使ってみたのだ。ギリシアのフェタチーズというのが、昔はイチジクの樹液を使っていたそうだ。ギリシャ神話時代から近代までそうだったらしい。
 牛は反芻動物で、俗に胃が四つあるなどと言われる。実は、ミノ・ハチノス・センマイは胃ではなく食道が変化したもので、ギアラだけが本来の胃であって、そのため消化酵素が出るのもこの第四の胃だけで、レンネットもそこから採れる。とはいえ、仔牛のギアラからどうやってレンネットを採ればいいのか分からないんだから仕方ない。なお、現代では微生物によって合成されたレンネットが使われるので安心していい。
 生乳から作られているものに、酪がある。発酵乳で、飲むヨーグルトのようなものだ。この酪を加熱するとラムスデン現象で膜が張るが、この膜のことを、酥(そ)という。
 取ったばかりの酥を生酥(せいそ)といい、熟成させたものが熟酥(じゅくそ)であり、この熟酥から醍醐が作られる。
 全乳を加熱し濃縮したものを蘇(そ)というが、これは酥の簡易製造法として考案されたものかもしれない。蘇は平たく言うと、砂糖を加えない生キャラメルである。税として国に納めるもののひとつに蘇があるくらい普通に存在しているものだ。
 同じように豆乳からラムスデン現象で得られるものを湯葉という。これも時間があったら作ってみようかと思っている。生酥は知っているだろうが、湯葉は後二百年ほど後に伝わってくるものだ。
 これらはどちらもタンパク質なので、不足がちな平安人にはいいだろう。
 で、次の料理だ。
 小麦粉を牛乳と少量の塩を加え、練っておく。
 牛乳を小さなツボに入れ、振る。これは非加熱だが、すぐに高温加熱するのでいいことにした。振っていると、そのうちごとごといい出す。脂肪分が固まったもの、つまりは無塩バターである。
 練った小麦粉を麺棒で延ばし、そこにバターを少量塗った。三つ折りにして、延ばして、また塗る。これを三回繰り返す。本当はよく冷やして、板状のバターを挟むのだが、残念ながら冷蔵庫はない。
 薄く延ばして四角く切って、油で揚げる。バターを塗った分、少しはさっくりした感じに仕上がったようだ。
 これにモッツァレラチーズを小さく切って乗せる。
 カナッペというところだな。
 残ったモッツァレラチーズは塩水の中に保存しておいた。
 食ってみると、適当に作った割には結構美味い。
「んまいじゃない。あんた珍しいもの良く作れるわね」
「おいしぃ。狐にはこれを捧げてもらおう」
 好評で良かった。
「玉藻、明日はすっごいの作るからな。もっと気に入ると思うよ」
「嬉しい、お兄ちゃん」
 抱きつかれた。すぐに抱きつくのはきっとしずかの入れ知恵だろう。
 夕食の準備が始まりそうなので、部屋に戻ると、そのしずかが待っていた。
「……遅い」
「ごめん、ほら、お前のも持ってきたぞ、食ってみろ」
「……あっさりとしていて少しもくどくなく、それでいて味は濃厚」
「お前、何者だ」
 いつも思うが、ホントに何者だ?
「……今日から玉藻はうちで預かる」
「いいのか?」
「……その方が安心。今、結界を作ってきた」
「昨日はダメだったのか?」
「……お父さまがいないと結界を作り直せなかったから」
 天下の安倍晴明の屋敷だったら、大抵のことは大丈夫そうだし、安心だな。
「ちょっと待って! もしかしてなんだけど、玉藻って昨日ここに泊まったの?」
 ゆかりが開けてはいけない真実の扉に気づいてしまった。
 言うなよと、しずかに目配せすると、しずかは頷いた。
「……あたしも泊まった」
 いや、一番言っちゃいけないとこだろ、そこ!
「とととと、泊まったあ!? どこに寝たの!?
 言うなよというプレッシャーでしずかと玉藻を睨むと、ふたりは頷いた。
 で、同時にベッドを指さしやがった。
「で、あ、あんたはどこに寝たのよ!」
「いや、俺は……」
「……真ん中」
「真ん中ぁ!?
 とうとう地雷を踏みやがったな。
 顔を伏せ、肩を振るわせるゆかり。泣いているのではなく、もの凄く怒っていると直感した。
「決めたわ! 今日はウチがここに泊まる。あんたたちは泊まっちゃダメだからね」
「お前、そんなこと勝手に決めちゃダメだろ」
「や、優しくしてよね……」
 潤んだ目で突然のデレモード全開のゆかりである。ムゲにすると後がもっと怖いので、とりあえず流れに逆らわないでおくしかないか。何とかなるだろ。
 帰るというしずかが言うので、玉藻に、よそに泊まるんだからずっとちっちゃい子の方になっているんだぞと諭しておいた。
「お兄ちゃん、もう会ってくれないの?」
「大丈夫、しずかとまたおいで。大抵、毎日来るから」
 良い子にしてるんだぞというと、うんと言ってしずかと出て行った。
 よし、ひとつ片付いた、残りはこいつか。
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