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Update 2014-07-01
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- 【俺のラノベは平安絵巻】 第4巻:page9 - |
枕部には既にみんなが集まっていたので、注目の中での作業である。
まず水を張った鍋を火にかけ、煮込むものを大振りに切って投入する。水から茹でた方が灰汁が多く出ると思うが、これらは血液や体液が熱で凝固したものなので出した方がいい。 その間に、ランプ肉の塊全体の表面を焼き、ダッチオーブンに入れ、火の中に入れておく。ローストビーフだ。最初は強加熱して、その後は薪から離して火をじっくり通す。 煮込みは沸騰してしばらくしたら煮こぼして、再度水から茹でるが、今度は沸騰まではさせず温めて洗うくらいのつもりで煮こぼしてしまい、本番の煮込みに入る。 加熱・放置・再加熱と何度か繰り返す。放置があるのはエコのためだ。 みんなを集めて指示を出した。 「今日は牛食い祭だ! 今日の申二刻から、枕部の周りで牛を食うので、希望者はその時刻にいること。なお、友人知人にも声を掛けて希望者を集めてくれ。諾は伊周さまにお知らせして、蔵人や検非違使の知り合いにも知らせてくれ。モトちゃんはうちの人とか道隆さまに知らせてくれ。さやとゆかりは宮中とか定子さまにお知らせしてもらう。飛鳥と瑠璃は常さん長さん直角とかに声を掛けてくれ。後の者も誘える人がいたら何人でもいいから連れてきてくれな」 「その牛食い祭とは何ぢゃ?」 「牛を食う祭りだ、お前がこの前運んだ牛を食うんだ」 「それっていつ決まったのよ」 「たった今だ! ゆかり」 「……それのどこが祭り?」 「日頃から世話になってる牛に感謝して、牛があの世で幸せになることを祈るから祭りだ」 「殺生は禁じられてるんちゃう?」 「死んだ牛だからいいのだ」 「その考え方だと、大事な人が亡くなったら食べていいということですね」 「だめだ、玉藻。俺を食うのは禁止だ」 「それって差別ですよね」 「違う、さや。俺の時代だと牛は食いもんで、これも伊周さまのお許しがあってのことなんだ」 「犬とか猫とかも食べちゃうの?」 「食べないって、モトちゃん。食べるのは主に、豚、牛、鶏だな」 などという質疑応答が続き、やっと納得してもらえた。 決め手は「じゃあ、お前らは食うなよ」で、そう言うと途端に食べる方向に変わったのである。 みんなは知らせに出て行き、俺はローストビーフを外に出すと、信長を誘いに行った。 探すまでもなく、狗が俺を見つけて「親方さまがお探しでした。こちらへ」と連れていかれた。 そこは同じ敷地内の兵部省だった。 「来たか源氏、お主、妙なことを吹き込んだようだな」 信長の傍らには伊賀の連中が控えている。何か変なことを言っただろうか。 俺が不思議そうな顔をしているので、信長は甲賀の頭に目配せすると、頭は話し始めた。 「拙者らはお言いつけの場所にて、石炭なるものを見つけたでござる。すぐにご入り用かとも思い、持てるだけ運んで来たでござる」 「それは良かった、ごくろうさん。で、俺って変なことをお前らに言ったっけ?」 「そ、それは拙者の口からは……」 「これだ、源氏」 「え? これというのは?」 「やつら前は普通に話していたものを、いきなり拙者だのござるだの、妙な喋りになったので質してみると、やはりお主のせいだと言うではないか」 「あ、それですか。だめでした?」 「まあ、害はないし、元の時代で慣れた口調ではあるのだがな」 「やっぱり! 忍者ってこういう喋りですよね!」 「何を喜んでおるのか知らぬが、伊賀だけでなく甲賀までとは、念の入ったことだ」 「すいません。で、話は違うんですが、急なんですけど、牛食い祭ってのを申二つ時から枕部でやりますから来てください。みんなも」 ここにいるのは貴族じゃないので、普通に喜んでいる。味を知ってるからだろう。 「で、伊賀にも知らせて欲しいんですが。牛を最初に処理したのは伊賀なので」 「分かりました、拙者らで知らせて参りますが、甲賀の仲間も呼んで良いでござるか?」 「もちろん」 「なあ、源氏、枕部でやるというのはいいが、外の人間を宮城内に入れるのは根回ししたか?」 「やっぱマズいかですかね……どうしましょう?」 「兵部省内は儂が話すとして、検非違使の方はお主で話してくるがよい。お主が直々に言ったらどうとでもなる」 「ですか、じゃあちょっと行って来ます。必ず来てくださいね」 俺は検非違使別当を探しに出た。 |
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